海からの声を伝える?々
海からの声を伝える?々
略歴
元田 慎一(もとだ しんいち)
海洋電子機械工学部門 教授
東京商船大学(現 東京海洋大学)院修了後、
1986年に東京商船大学に助手として着任。
2007年から現職。
2021年?東京海洋大学海洋工学部 学部長も務める。博士(工学)。
- Q どんな授業を担当していますか?
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- 環境材料学(海洋電子機械工学科?2年次)を担当しています。
電気化学を基礎として金属材料の腐食?防食と商用電池の機構について学びます。
さまざまな製品には、金属やプラスチック、木材など、それぞれ多様な材料が使われています。ものづくりの現場では強度や耐性など、材料の特性をきちんと知ることが重要です。材料学というのは工学分野の基礎教育のひとつと言えます。
特に船舶は、「造って終わり」ということはなくて、何十年にも渡り、使用し続けるものです。建物も同じですが、長きに渡り使い続けるためには、メンテナンスが必ず必要になります。環境材料学では、メンテナンスの際、その材料が使われている雰囲気(環境)がどのようなものだったのか、その環境によりどんな影響を受けているのかという情報が非常に重要となるということを教えています。私は金属材料を主に研究対象としているので、金属材料の劣化?腐食に関する講義を中心に電池の電極への活用など、金属材料をどう活用していくかについても深く学びます。
国際会議で発表したポスター - Q 研究者になろう、と思ったきっかけは?
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- 大学に入学したときは、研究者になろうとは考えていませんでした。4年生のときも卒業したら造船所に勤めるつもりでいたので、研究者になるとか大学教員になるという発想は全くありませんでした。ただ、配属した研究室の指導教員から、大学院に行くのも面白いよって声をかけられて、そういう道もあるのかなと思い、大学院に進学することにしました。2年間、大学院の修士課程で研究して、研究の面白さを実感しました。好きなことをやっていると、時間を忘れるじゃないですか。研究室で実験やっていると、もう夜9時10時なんてあっという間で。そんな毎日を過ごすうちに、あ、もしかして「研究」って自分に合っているのかな?と思うようになったんです。それから、大学で教員になるということは、指導することも必要になるのですが、ティーチングアシスタントとして卒業研究をする4年生をサポートするようになると、それもとても楽しかった。それで、もしかしたら「教える」っていうことも自分に向いているのかなと思いました。それで、大学で研究を続けるという選択をしました。
- Q 大学院生時代の研究テーマは?
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- 材料の金属疲労についての研究をしました。50年以上前の話になりますが、海洋を航行中に船体が二つに割れて、沈没する、という事故が続いたことがありました。船体というのは溶接により金属の板を繋ぎ合わせて作ります。その溶接部分が海洋を航行していると波の力で押されます。何度も何度もあらゆる方向から波に打たれると、金属疲労を起こしてあるときポキッと折れてしまうことがあるんです。このような現象が、海水中で起こるので、金属疲労だけでなく、腐食※1も影響します。金属疲労等による部品の破損がなぜ、どのような条件で起こるのかを調べていました。金属疲労試験機という機械で、金属が劣化していく様子を観察しました。金属がひび割れ(クラッキング)してガラスのように折れてしまうまで、どのように変化していくかをいろいろな装置をつけて観察するのですが、一度試験を始めると終わるまで、3、4日かかるのでその期間は大学に泊まり込んで実験をすることもありました。地味な研究ですが時間を忘れて取り組んでいましたね。
※1腐食:金属材料は、熱力学的に安定な鉱物(酸化物など)から還元作用を利用して精製されることが多い。そのため、酸化物や水酸化物といった安定な物質に戻ろうとし、水中や空気中で酸素と結びついた結果、金属が溶けたり、サビが生じたりする現象。
金属疲労試験機 - Q 現在はどんな研究をしているのですか?
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- 先ほどお話ししたように、 もともとは材料のなかで特に金属を、その特性を保った状態で海水中でより長く、使用できるようにするための研究をしていました。具体的に言うと、腐食を防ぐためには金属の表面にどのような加工(塗装やメッキ※2)をすればいいのか、というような研究です。
ただ、このような研究は、?(マイナス)な課題をゼロにする研究です。もちろん、船体を長く使うためには不可欠な研究ではありますが、ゼロから+(プラス)を創り出すことにも挑戦したいという思いがありました。そこで今は、腐食を防ぐための研究成果やノウハウを活かして、金属表面を加工することで新しい機能を持たせる、プラスになる研究に挑んでいます。
※2メッキ:金属または非金属の表面を金属の薄膜で覆う表面処理
研究室にて - Q +(プラス)を創り出す研究をもう少し詳しく教えてください。
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- ひとつ紹介すると、「海洋微生物燃料電池」の研究です。
たとえば、海洋観測のためのブイを沖に設置して長期間の記録を取りたいと考えた時、課題となるのが電力供給。ブイに電池を搭載しても電力は有限です。そこで、海にあるものを利用して発電して使おうというのが海洋微生物燃料電池です。
正の電極(カソード)にする金属表面を加工、海水中に設置して、そこに棲息する微生物を付着させることで電極上にバイオフィルムと呼ばれる微生物の層を作ります。負の電極(アノード)は表面を酸化チタンで覆い、海面に設置して光エネルギーを取り込めるようにします。このふたつの電極をつなぎあわせると、アノード電極では、光エネルギーとにより微生物が有機物を分解したときに、電子が生じてカソード電極に流れ、発電します。
電極表面の加工を工夫することで、従来の微生物燃料電池よりも大きな電力を生むことができ、加えて電極の腐食も防ぐことができるという特長を持つ電池の開発に成功しました。それから、同じように物質の表面を加工することで、光エネルギーを利用して抗菌作用を持たせるという研究もしています。
明治丸をバックに - Q 2030年に向けて、これから入学してくる学生さんとどんな研究をしたいですか?
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- 「海」を知ることは、常に環境を意識するSDGsの概念に含まれると思います。これから入学してくる学生さんには「多様性」と「実体験」を大切にして、ぜび海洋大学での研究を楽しんでほしいですね。
まず、「多様性」、ひとつの物事を突き詰めることも大切ではあるのですが、ひとつしか突き詰めなければ、それがもしダメになった時に、選択肢がなくなってしまうこともあります。いろんなことを同時に学んで、知識を蓄積することで、この道がだめなら、じゃ次に行こうか、発想を変えることができます。これから学生になるみなさんは、私たちの世代よりも、もっといろんなことを自然と吸収している感じがします。それを大切にしてほしい。
それから「実体験」、海洋工学部では、海洋や船舶に、実際に触れる機会が非常に多いです。この実物に触れることができる、というのが、実は一般の工学部ではなかなかできないことで本学の特徴とも言えます。研究機器だけでなく、内燃機関(エンジン)など、今この世の中で動いている機械に触れられるというのは何物にも代えがたい経験です。この経験はきっと社会に出てからも役に立つし、実物に触れたからこそ湧き上がる発想もあるはず。なので、どんどん実物に触れる機会を持ってほしいです。
内燃機関実験室 - Q これから大学へ入ろうとしている若い世代へ一言
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- 日本は、高度経済成長期という時代を経て、これまで国の発展のために技術開発を進めてきた部分があると思います。2030年、その先の未来に向けて、これからは環境調和のとれた、持続的な社会のための技術開発を進めていかなければいけません。船舶の分野でも水素を推進用の燃料とするなど多様な船の開発が進んでいますし、船舶というのは国内だけでなく、海を越えて運航します。諸外国の考え方やルールも鋭敏に感じとり、国を越えた連携を進める姿勢が今後の技術開発には欠かせません。先ほどの「多様性」にも関係することですが、いろいろなことを吸収して将来に活かしてほしいと思います。
百周年記念資料館前にて