海からの声を伝える?々
海からの声を伝える?々
略歴
盛田 元彰(もりた もとあき)
学術研究院 海洋電子機械工学部門 准教授
横浜国立大学工学部を卒業、同大学院工学府博士後期課程を修了し、
2012年に博士(工学)を取得。
独立行政法人物質?材料研究機構 研究業務員、
横浜国立大学大学院工学府 工学府特別研究員及び
独立行政法人日本学術振興会 特別研究員を経て、
2012年に東京海洋大学海洋工学部助教に着任。
2018年から東京海洋大学学術研究院 准教授。
盛田 元彰(もりた もとあき)
学術研究院 海洋電子機械工学部門
准教授
横浜国立大学工学部を卒業、同大学院工学府博士後期課程を修了し、
2012年に博士(工学)を取得。
独立行政法人物質?材料研究機構
研究業務員、
横浜国立大学大学院工学府
工学府特別研究員及び
独立行政法人日本学術振興会
特別研究員を経て、
2012年に東京海洋大学海洋工学部助教に着任。
2018年から東京海洋大学学術研究院
准教授。
- Q 所属する学科はどんな学科ですか?
↓
- 海洋電子機械工学科では船の機械に関する研究開発と船員養成を行っています。船舶は完結したシステムを持っているため、学ぶ必要がある分野も幅広く、一般的な機械系と電気系の学科で得られる知識の両方を必要とします。金属材料、エンジンなどの機器、情報通信など、それぞれの分野のエキスパートが集まった学科です。
学ぶことが多いので戸惑うこともあるかもしれませんが、心配はいりません。大変な面もありますが、幅広い知識が身につくので後々やっておいて良かったと思えるはずです。少人数制ですので学生と先生方の距離が近く、入学後は基礎教養をはじめとする先生方が丁寧に教えてくれます。私も研究室では専門的な内容をできるかぎり丁寧に教えることを心がけています。
それから、AO入試で入学してきた学生には入学前教育というものがあり、合格してから入学するまでに数学と物理と英語を学べる機会もあります。
本学科では全員参加の乗船実習を通して集団生活を学び、船舶にも実際に見て触れて動かして体験できます。材料の研究にしても、その材料が船の中で何のためにどこに使われているのかしっかり理解することができ、学習効率が高いです。
社会人になって初めて実際の機械を使用する人が多い中、先に体験できることは大きなアドバンテージになります。また、集団生活を通して礼儀やコミュニケーション能力も身につきます。就職活動の時に、これらのありがたさに気がつく学生が多いようですね。他大学の学生と異なり、海洋大生は実体験を人に語ることができますし、挨拶がしっかりできるのも特徴のひとつです。
研究面では、各分野に高度な専門知識を有した教員がおり、その分野に特化した専門性を身につけるために大学院に進学し、専門性を活かした就職をする学生も多いです。 - Q どんな授業を担当していますか?
↓
- 短艇実習(海洋電子機械工学科?1年次)、金属材料学(海洋電子機械工学科?2年次)、それから電子機械工学実験(海洋電子機械工学科?3年次)を担当しています。
金属材料学について詳しく説明すると、金属材料には鉄(鋼)、アルミニウム、チタン等の材料がありますが、その種類は様々あり、適用したい箇所に最適なミクロ?ナノオーダーでの設計がなされています。例えば、自動車の場合だと骨格に使用される鉄(鋼)は強度が高くなるように設計され、外板に使用される鉄(鋼)は加工しやすくなるように設計されています。また、一般的にステンレス呼ばれる材料は、正式名称はステンレス鋼といって、サビにくいように設計された鉄(鋼)です。鉄(鋼)はサビやすいというイメージがありますが、腐食しにくく設計することも可能なのです。特性を変化させる方法としては、ほんのわずかな元素を添加したり、冷却や加熱したりすることで金属の特性は大きく変化するので、これを利用します。ある意味料理みたいなものですね。わずかな塩加減や熱加減によって味が大きく変化することと同じようなことが、金属でも起こるのです。鉄(鋼)の場合では、鉄中に重量で0.1%の炭素を含有させた場合と、0.4%含有させた場合では強度が2倍以上になることもあります。表面組織の写真(文中?下)を見ると、含有率による違いがわかります。黒く見える部分が硬くて、白く見える部分が柔らかい部分です。例えば、黒く見える部分が多くある0.8%のもの(写真Fe-0.8%C)は強度が必要なピアノ線等に使われています。正確にはこの黒い部分は拡大すると縞模様になっており、パーライト組織と呼ばれています。
炭素鋼の表面組織写真:僅かに炭素量を変化させただけでミクロの様子が変化する (単位はmass%)
船舶には金属材料、主に鉄(鋼)が多く使用されています。どのくらいの元素が含まれているか、どのような処理がなされているかを知ることで、適用したい箇所に最適な材料選択ができます。逆に、誤った選択をしてしまうと甚大な事故につながってしまう可能性があります。そのようなことがないよう、この授業では金属材料のミクロ?ナノ設計に必要な知識を身につけてもらうことを目的としています。実験では、ミクロ?ナノ設計のための観察方法について学び、最近では画像認識の技術を用いたりもしています。ミクロ?ナノオーダーの組織について、コンピューターに判定させる試みです。ちなみに、担当する短艇実習では、お台場のレインボーブリッジとキャンパスのポンドを往復します。相当疲れますが、チームワークが必要なので団結力が生まれると思います。 - Q どんな研究をしているのですか。その研究のおもしろさは、どんなところですか?
↓
- 地熱発電の発電量拡大や導入拡大に資する材料開発を主に研究しています。地熱発電とは、海水や雨水が地下深くに蓄積し、マグマに温められ高温高圧の状態になった水を地上に取り出して、蒸気となった水を利用してタービンを回転させることで発電するシステムです。取り出した水は再び地下に戻しており、このサイクルを通じて再生可能エネルギーとして利用し続けることができます。地熱発電で課題となっていることが、スケール※(水垢)の形成です。スケールが配管に付着することで、水が通る道が狭くなり、取り出したり戻したりする水の量が減り、発電量が減ってしまうことが問題となっています。
スケールで詰まった地熱発電所の実際の配管
スケールの抑制には薬品注入なども考えられてはいますが、私は環境を考慮するためになるべく薬品を使わない方法や環境に優しい薬品の適用を考えています。私の研究室では析出したスケールの物質に関する研究や、スケールがどのように表面に付着するかについて研究を行っています。また、研究室での環境と現地では析出するスケールの特性が異なるため、研究室でいかに現地の環境を模擬するかを目標にしています。研究室で再現できれば研究開発のスピードが上がると考えています。
世界初!実験室で現地のスケールを模擬できる装置
同じように地下から高温の水を取り出して利用している温泉でも同じような配管の閉塞が起きることがあります。温泉の場合では、スケールと呼ばず「湯の花」と呼びますが、最近では温泉を経営する人の高齢化や人手不足で、配管の清掃(湯の花の除去)も難しく、温泉事業を存続させるためにも必要な研究と考えています。この研究の面白さは、温泉や湯の花といった日本では昔から知られているものにもかかわらず、その付着機構については未だ明確でないことです。観察する地域によって泉質が違うので研究しても無駄だと言われてきたこともあり、私も初めは自然が相手であるためスケールの形成機構を理解することは難しいかなと考えていました。しかし、長く研究を進めていくうちに、ある程度の法則が見えてきました。最近は、表面に最初に付着する物質が何かということを研究しています。この研究を通じてまだ誰も知らないことを最初に知れたときに達成感を感じます。また、この研究の現地試験は雲仙、湯布院、熱川など、温泉地域で行うことも多く、その際に温泉に入ることも楽しみの1つです。
スケール:地下深くに蓄積された高温高圧の水の周りは鉱物で囲まれており、その鉱物が水へ溶け混んでいる。この水を地上に取り出すと温度と圧力が下がり、水の溶解度が下がるため、溶けきれなくなった鉱物が水中で析出したものをスケールという。温泉地では「湯の花」とも。
- Q 何がきっかけで、その研究をしようと思ったのですか?
↓
- 2011年の東日本大震災を機に、世界第3位の地熱ポテンシャルを持つ日本にとって地熱発電の研究開発は必要だと思い、地熱発電の導入拡大に貢献できるよう、スケール付着を抑制する材料開発への挑戦を開始しました。そのタイミングでたまたま国の研究開発プロジェクトとして「地熱発電技術研究開発事業」の公募があり、応募したところ運良く採択されました。まだ20代だったので国のプロジェクトを研究代表として担当することは全てが刺激的で新鮮でしたが、研究室の環境と現地の温泉水の相違などの問題があり、プロジェクトの目標には十分には届きませんでした。その責任を感じていたところもあり、また、その研究開発を完成させることも、学術的に追求することも難しいと当時は考えていたため、プロジェクトが終わったらその研究開発をやめようと思っていました。そのような気持ちでいたところ、実地試験を行っていた温泉地域の人々に講演を頼まれ、析出した物質のことなどについて発表したのですが、最後に温泉地域の代表の方の締めの一言で、名指しで研究を続けてほしいと100人以上の会場で頼まれ、裏切るわけにはいかないと思い、その研究を続ける決心をしました。研究を追求していくことは難しいと考えていましたが、国のプロジェクトの経験を活かし発想を変えて研究を続け、それが上手く進んでいます。また、現地の環境をいかに研究室で再現するかということも重要と感じ、それも今の研究に繋がっています。
講演会の様子:地熱シンポジウム in 雲仙 - Q その研究はSDGs何番の目標と関わりがありますか?
↓
- 「7番 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」です。再生可能エネルギーとしての地熱発電の導入拡大です。地熱発電は発電所が都市部と離れているため、災害時の非常用電源等、リスク分散に有効だと考えています。地熱発電の熱源は飲料水の確保にも繋がります。また、今日本で研究開発が進められている超臨界水を利用した超臨界地熱発電を実現することができれば、革新的に発電量が変わるといわれています。この研究を進める上では、地熱発電所の仕組みも理解しておかなければいけないため、水処理メーカーのみならず、プラントメーカー、材料メーカーでの仕事に結びつきます。実際に今現在、企業と共同して地熱発電で活用できる熱交換器の開発を進めています。実現するためには、様々な課題があり取り組んでいるところです。他にも「8番 働きがいも経済成長も」、「9番 産業と技術革新の基盤をつくろう」、「17番 パートナーシップで目標を達成しよう」と関わりがあると考えています。8番と9番は、地方創生で関わりがあります。そして、特に17番のパートナーシップは大切にしています。実地試験場所もサンプル採取も協力してくれるところがなければできません。これまでの研究を続けてこられたのは人との繋がりがあったからこそだと思っています。
温泉地の皆さんとの地熱発電所視察にて
研究開発しているスケールの影響を低減できる熱交換器の実験の様子 - Q 研究者として、今後の目標は何ですか?
↓
- 研究者としての今後の目標は後世を育成することです。持続可能な社会を実現するためには、取り組んでいる研究を未来へとつないでくれる人材が必要です。持続させるためには未来へとつないでくれる人材育成が必要です。私の研究の内容そのままでない方がよく、何かしらのイノベーションを生み出す人材育成が必要と考えています。私が研究をしている間に、自分で自分の研究を産み出し、私自身に刺激を与えてくれる人材育成できれば本望ですね。私自身色々なことに興味があり、同じ研究をやり続けるより、研究の中で面白いと感じた新しいことを常に追っていきたいと思っています。今行っている企業との共同研究を通じて、新しいことを追うことができているため、それを育てていきたいと思っています。新しいことに次々取り組むような研究の仕方が果たして正しいのかと悩んだ時期もあり、ほかの研究者の研究の進め方を調べたことがありました。そんな時、ある教授も若い頃同様に悩んでいてノーベル賞を受賞したある教授に講演で質問した時に「重要で、面白い研究であれば何でもいいじゃないか」という言葉で勇気をもらったという話にふれ、自分なりのスタイルで進めても良いのだと気づきました。
学生との金属材料の耐久性評価実験 - Q 2030年に向けて、これから入学してくる学生さんとどんな研究をしたいですか?
↓
- 研究は趣味のように自発的にやっていくものだと思っており、魅力的な研究テーマを設定し続けていきたいと思っています。2030年に向けての目標としては、地熱発電を実用化させていきたいです。そして2030年で終わりなのではなくて、2030年以降も続けていきたいという思いが強いです。国のプロジェクトの研究代表者として選んでいただいたことは、今振り返ると大学院を出たばかりの自分を信頼してよく任せてくれたと思いますし、温泉地域の方々が受け入れてくださったことにも感謝の思いが強く、人が導いてくれ繋いでくれたからこそこれまでの研究ができたと感じています。研究は、自分一人の実力だけでは達成できない場面がたくさんあります。これまでお世話になった方々へ還元できるような、社会貢献ができる研究がしたいですね。
試験片浸漬試験の合間に学生さんと(2013年)
浸漬試験をした本多湯太夫邸にある貯湯槽(雲仙市小浜温泉)
湯太夫とは湯守をしている殿様のような立場の人のこと
(https://www.youtube.com/watch?v=HLxJZ-m4mfI)