講義?ワークショップ等の報告
第5回「高度専門キャリア形成論Ⅰ?Ⅱ」の報告です
2013.11.01
第5回高度専門キャリア形成論Ⅰ?Ⅱが、10月24日(木)に開催されました。
「海洋産業への期待 ~知っておきたい現状と将来~」
塩原 泰 氏(一般社団法人海洋産業研究会主席研究員兼研究部長補佐)
キャリア開発室松山先生の司会進行で、講義と質疑応答が恙なく進行しました。
◆最初に、松山先生から本日の講義趣旨について説明がありました。
今回は、博士を取得した先輩OBが社会でどのように活躍しているかを紹介したい。海洋産業は今注目されており、特に震災による原発事故以降は、洋上風力発電が最先端の分野として注目されている。たとえ専門分野が異なっても、知識を増やし、考え方を学ぶことで、自分の研究に活かせるのではないかと考えて企画したと説明がありました。
◆続いて塩原氏が登壇し、初めに自己紹介がありました。
塩原氏は、東京水産大学で魚群生態学を学び、魚の視覚機能についての研究で学位を取得した後、海洋産業研究会に就職されました。趣味は釣りやマラソンで、学生時代はボート部に所属しており、海洋大周辺の運河で練習していたそうです。
1)わが国の海洋政策について
まず、わが国の海洋をめぐる政策についての説明がありました。
日本のEEZ(排他的経済水域)の広さは世界第6位で、国土の12倍の広さがあり、そこには様々な鉱物資源や水産資源が豊富に存在している。また、EEZには主権的権利が認められており、天然資源の開発と経済的な探査?開発(海水、海流および風からのエネルギーの生産等を含む)ができると説明されました。
わが国ではH19年(第一次安倍内閣)に、海洋基本法が初めて施行された。その際に、内閣総理大臣を本部長とする総合海洋政策本部が設立され、海洋政策担当大臣が任命された。今年度(H25)には、基本法に沿って第二次海洋基本計画が策定された。これまでと異なる施策としては、①海洋エネルギーと鉱物資源開発計画の改定、②風力発電等の海洋再生可能エネルギーの普及の為の実証フィールドの整備、③海洋保護区設定の推進、④新たな海洋産業の創出(浮体式LNG等)、⑤EEZ等の開発の促進(EEZを管理するための包括的な法整備)等を挙げ、更に詳細な説明がありました。
2)我が国の海洋産業について
続いて、我が国の海洋産業の現状について説明されました。
海洋産業の市場規模は、H21年度に公表された『海洋産業の活動状況に関する調査について』は20兆円(H17年調査)と発表され、宇宙産業(6.2兆円)と比較しても、急成長する産業であることが分かると述べられました。(宇宙産業とはよく比較されるらしい。)
また、国交省による『海洋産業の戦略的育成のための総合対策』では、一般商船分野の成長予測は横這いである一方で、海洋資源開発船舶と洋上風車は急成長すると予測されている。特に、付加価値が高い船(浮体式)を造ろうとしているようである。しかし、この分野で日本は世界シェアの1%にすぎないが、韓国と中国は既に大きなシェアを占めている。塩原氏は、このままでは将来において、EEZ開発を自国の技術で行うことが困難になってしまう恐れがあると危惧されていました。
3)いま注目の海洋産業について
続いて、今注目の海洋産業について、国内外の事例を基に写真を交えた説明がありました。
洋上風力発電(浮体式と着床式)におけるわが国と海外の現状、および海洋エネルギー開発全般における欧州の状況について写真を用いて紹介がありました。世界では、海流と波力を主力とした開発が非常に進んでいるそうです。
次に、海洋エネルギーの種類(洋上風力、波力、潮流、海流、潮汐、海洋温度差、海水揚水、塩分濃度差)とその熟度について説明がありました。着床式の洋上風力発電は欧州を中心に既に実用段階にあるが、日本では浮体式が中心になると考えられていると紹介されました。
4)海洋産業研究会の紹介
続いて、海洋産業研究会の活動内容が紹介されました。
特徴の一つとして、発足当初から漁業協調型を掲げていた。H25年5月に海洋産業研究会が発表した『洋上風力発電等の漁業協調のあり方に関する提言研究』(委員長は松山先生)では、漁業協調が重要であると記述されており、発電事業者と漁業者がWin-Winの関係で取り組むことが基本的な考え方だそうです。本委員会では、当初から発電事業者と漁業者が一つのテーブルで話し合い、同じ海域を共有する考え方や、高齢化?過疎化の漁村や沿岸漁業の振興等にもつなげる施策を、一緒に考えることが大事であると述べられました。
次に、『Offshore Wind Farmの漁業協調メニュー(案)』が紹介され、海況情報のリアルタイム提供、風車基礎部の人工漁礁化利用、養殖施設の併設、定置網等の併設、レジャー施設の併設、発電力の活用、漁業者の事業参加等々についてスライドを使って詳細に説明されていました。
5)海洋大にエール
今は海洋基本法時代と言われており、第二次海洋基本計画に沿った施策が開始され、専門家の活躍が必要とされている。しかし、現実にはどの場面にもいつも同じ人たちが関わっている。これからは、海洋大が必要とされる専門家を育成?輩出することを期待していると述べられました。
また、塩原氏は、韓国の研究者に「Japan is the luckiest county in the world.」と言われ、日本は海洋に関する機会に多く恵まれている国だと言われたことがあるそうです。海洋に対する国民の期待は、かつてないほど高まっており、「人材のニーズはある。」と言って講義を締め括られました。
最後に、松山先生から「密度の濃い講義をしていただき、それを真剣に聴講し、凄い(鋭い)質問がたくさん出て、皆さん勉強しているなと感心しました。」と感想が述べられて講義は終了しました。
海洋産業の最新動向に触れることができた、貴重な機会となった講義でした。
◆以下は、引き続いて行われた質疑応答の要約です。
Q/A-1 実際に、漁業者たちはどう考えているのか?
色々な意見があるが、最近では震災による原発事故以来「大事なことであることは分かる。」という意見が多くなってきている。漁業協調が大事で、折合いが付く場所を探すことが必要である。
Q/A-2 工学系(電気?電子等)の話しと感じたが、魚の生態を研究してきた者にも就職の余地があるのか?
日本ではまだ産業界が敏感に反応していないので、就職先を潤沢に紹介できる状況にはない。しかし、ここ数年は追い風を感じており、徐々に良くなると期待している。
(松山先生からのコメント)
風力発電を作っている会社だけでは実現できない。調査会社やコンサル会社も参加して、チームでやらないといけない。実際に、これらの企業は皆さんのような人材を必要している。
Q/A-3 海洋産業の発達には、もっと一般人への教育や普及活動が不可欠と考えられるが実態はどうか?
総合海洋政策本部には、文科省をはじめJAMSTECJAMSTE等の様々な省庁や機関が参加しており、海洋教育、普及啓発を専門に取り組んでいる部署もある。
以上