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国立大学法人 東京海洋大学

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令和6年3月期 東京海洋大学卒業?修了における学長式辞

イベント 卒業生の方

★20230517_海洋大学_越中島_397.JPG 海洋生命科学部、海洋工学部ならびに海洋資源環境学部の皆さん、 本日はご卒業誠におめでとうございます。そして海洋科学専攻科ならびに大学院海洋科学技術研究科の皆さん、修了おめでとうございます。入学?進学時の初心を貫いて、卒業?修了という大きな目標を達成された皆さんには、心から敬意を表したいと思います。

 思い返せば、皆さんの在学中にはいろいろな事がありました。新型コロナウイルスによるパンデミックは地球上の全ての人々の生活を直撃しましたし、ロシアのウクライナ侵攻は多数の犠牲者を出すとともに、エネルギー価格や食糧価格の高騰を招き、私たちの生活に今なお影響を与え続けています。そのような過酷な状況に耐え抜いて、皆さんは今、人生の新しいスタートラインに立ちました。幾多の苦難を乗り越えて、頑張ってきた自分をしっかりと褒めて下さい。そして、その喜びを是非、ご家族や友人たちとも分かち合って欲しいと思います。

 さて、これまでの学位記授与式の式辞では、私はSDGsやカーボンニュートラルの達成に向けて、本学の卒業生や修了生の活躍を期待しているということを述べてきました。持続可能な開発目標を2030年までに達成することや、2050年までに脱炭素社会を実現することなど、問題解決を先送りすることなく、タイムリミットを設けて世界一丸となって努力することに共感しているからです。そして、そのような状況の中で、本学卒業生に活躍して欲しいと願っているからです。

 ところが、最近になって「脱炭素疲れ」という言葉を耳にするようになりました。この言葉は、先に述べた、近年のエネルギー価格や食糧価格の高騰が原因となっているようで、EUを始めとした先進国において 石炭火力発電所の運転延長など、脱炭素化から後退する方針が相次いで 打ち出されています。民間企業においても、メルセデスベンツは 2030年までに 全ての販売車種を 完全に電気自動車化すると宣言していましたが、ハイブリッド車用の内燃機関モデルの開発を再開したと 報道されています。再生可能エネルギー分野では、世界最大の洋上風力発電開発事業者であるデンマークのオーステッド社がアメリカで行っている開発事業の中止を決定するとともに、ノルウェー、スペイン、ポルトガルの洋上風力発電市場から撤退すると報道されています。このように、これから皆さんが巣立っていく社会は、協調して目標を達成するという観点からは活力を失い、むしろ妥協する方向に進んでいるように見えます。

 ここで、私が皆さんにお伝えしたいことは、皆さんが活躍する場は狭くなるどころか、ますます広がっているということです。カーボンニュートラルやSDGsの達成は、化石燃料の利用や、再生利用を考えない大量消費など、これまでの私たちの生活様式や、社会システムそのものを変革する必要があり、そこには卓越した技術はもちろん、それを社会実装する様々な技術が必要となります。過去の常識や慣習に囚われない、若者の自由な発想こそがそのような社会変革、すなわち「イノベーション」につながると私は考えます。つまり、皆さんが「イノベーション」に最も近いということです。

 皆さんは「ケプラーの法則」で有名なヨハネス?ケプラーというドイツの天文学者を知っていると思います。彼は25歳の時に「宇宙の神秘(Mysterium Cosmographcum:ミステリオム コスモグラフコム)」という著書の中で、太陽系の六つの惑星(水星?金星?地球?火星?木星?土星)の位置関係を、太陽を中心として外接したり内接したりする五つの正多面体(正4面体、正6面体、正8面体、正12面体、正20面体)を組み合わせたモデルで説明できると述べました。数学的に正多面体は5つしか存在しませんし、当時、惑星は6つしか存在しないと信じられていましたので、数学者でもあったケプラーは 両者の間には神秘的で調和のとれた壮大な関係が有ると考えました。まさに、若者の自然な発想だったと言えます。もちろん、ケプラーのこの発想は完全に間違いだったのですが、その慣習に囚われない自由な発想が後の有名なケプラーの3つの法則を生み出し、1000年以上信じられていた天動説を退ける「イノベーション」の契機となったことは、何とも痛快な思いがします。

 もう一つ興味深いことに、ケプラーは28歳の時に、デンマークの優れた天体観測者であるティコ?ブラーエの助手を務めていました。ケプラーは自分の理論を完成させるために、ティコ?ブラーエの正確な観測データがどうしても必要だったのです。しかし、ティコ?ブラーエは天動説を支持しており、観測データをケプラーに見せることはありませんでした。ティコ?ブラーエはその1年半後に亡くなるのですが、その間際に、16年におよぶ精密な天体観測データと皇帝の勅命による天文表、いわゆる「ルドルフ表」の完成をケプラーに託しました。それから8年後、ケプラーは第一法則と第二法則、さらにその10年後には第三法則を発表し、「ルドルフ表」をさらにその8年後に完成させました。ケプラーにとっては、ティコ?ブラーエとの1年半はストレスフルで、研究も停滞しがちな苦しい期間だったのかもしれませんが、主義主張の異なる人物と何とか協調して、最終的に目標を達成したことは、私たちも見習うべきだと思います。

 皆さんがこれから乗り込む社会という船では、古い慣習や時代遅れの常識が今なお存在しているかもしれません。その中で、皆さんには是非、自由な発想で新しい風を送り込み、イノベーションを起こす人材になって欲しいと私は思います。乗り込んだ船で激しい時化に遭遇したときには、主義主張の異なる仲間とも強調して、一緒にオールを漕いで乗り越えられる人であって欲しいと思います。そして、どうしても越えられない荒波に出会ったときには、是非、指導教員の先生や、東京海洋大学校友会にコンタクトしてください。きっと、乗り越えるためのヒントが得られると思います。

 本学はいつでも、また、いつまでも皆さんをサポートしたいと思っています。皆さんの元気に満ち溢れた笑顔に再び会えることを期待しつつ、式辞とさせて頂きます。

令和6325
東京海洋大学長 井関俊夫

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