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令和5(2023)年度東京海洋大学国際共同研究促進のための交流支援事業報告2
「東京海洋大学国際共同研究促進のための交流支援事業」では、本学の国際化及び研究の高度化に向けて、国際共同研究の促進につながる交流事業のための外部資金の獲得件数増加を目指し、本学研究者による国際的な交流に必要となる経費の一部を支援しています。本件は、本事業により実施しました。
【研究課題名】
クルマエビ類免疫反応の単一細胞ランドスケープ解析
【目的】
クルマエビ類は東南アジアを中心に世界中で盛んに養殖されているが,魚病による被害が大きい。病原体とどのように戦っているのかを理解するためには生体防御機構を明らかにする必要がある。クルマエビ類の生体防御には,体液中の血球細胞が重要であるとされている。しかしながら,血球細胞の分類や機能解析には課題がある。本課題では,クルマエビ類生体防御の専門家であるSomboonwiwat博士とシングルセル解析技術を有する小祝が共同し、体液中の血球細胞が外来の刺激によってどのように変動するかをシングルセル解析することで、生体防御機構において重要な働きをする細胞集団を把握することを目標に研究を進めた。
【概要?成果】
2023年の8月1日から30日にかけて、タイ国からSomboonwiwat博士およびNanthajak研究員を招き、東京海洋大学ゲノム科学研究室内にて研究を実施した。具体的には、タイでサンプリングした病原菌または熱ストレスにより刺激されたクルマエビ類の血球細胞を材料に、Drop-seq法によるシングルセルmRNA-seqライブラリーを構築した。2種類のクルマエビ類、Penaeus vannameiおよびFenneropenaeus merguiensisを材料に、合計8種類のライブラリーを期間内に構築することに成功した。現在、これら8ライブラリーを次世代シークエンサーによるシークエンスに供している。今後は、本シークエンシング結果から得られるデータを互いの研究室で解析し、国際論文への投稿および国際共同研究への発展に努める予定である。また、実験当初はDrop-seqで用いるマイクロ流路の操作等に戸惑っていた両名であったが、帰国1週間前にはDrop-seqを独自に運用できるまでに実験を習熟した。共同研究を今後も進めていくうえで、お互いが同一の実験プロトコルを正確に理解し合うことは重要であるため、本事業により同一の場所で一緒に実験をできたことは大きな成果である。本事業をサポートしていただいた、「東京海洋大学国際共同研究促進のための交流支援事業」の支援に感謝いたします。
【期待される効果】
1細胞レベルでの解析により、病原体に感染した際の血球細胞の挙動が明らかとなる。本研究により,エビ類が持つ免疫機能を最大限に上昇させることが可能となれば,使用する抗生物質の量を劇的に減少させることが出来る。さらに,魚病による斃死個体を減らすことは,政府や国連が掲げるSDGsや温室効果ガス削減の達成にも貢献できる。
ゲノム科学研究室所属修士1年生原田さん指導の下、Drop-seqマイクロ流路を操作するSomboonwiwat博士およびNanthajak研究員。
東京海洋大学ゲノム科学研究室内にてDrop-seq法によるシングルセルmRNA解析を実施している様子。右からSomboonwiwat博士、Nanthajak研究員、原田さんおよび小祝助教。